抜歯は最終手段です
多くの歯周病は、適切な治療を行えば、100%元通りの状態にできなくても改善することはできると考えます。ですから、歯周病専門医として、「患者さんの歯をできるだけ残すために、どのような治療をすればより良い結果が得られるか」を常に考えて治療を行います。
抜歯という処置は最終手段です。重度の歯周病であっても、治療によりそれ以上の進行を食い止め、中長期的な安定が得られるように取り組むのが、歯周病専門医としての本位です。
しかし、いかなる治療をもってしても改善が見込めない不良な歯に関しては、抜歯をお勧めすることもあります。そのような歯を残すことは、周囲の歯を支えている骨まで溶かしてしまう原因になるだけでなく、不良な歯を避けて噛むようになることで噛み合わせが悪化してしまったり、長期に亘る炎症が全身へ悪影響を与えたりするからです。
以下のような場合には抜歯をお勧めします。
- 改善が見込めない重度の歯周病に罹患している場合
- 歯の周囲の骨が溶けて動揺が著しく、歯が病的に移動していたり、固定をしたりすることが不可能な場合
- 修復できない歯根破折
- むし歯が歯冠だけでなく歯根にまで深く進行している場合
- 根の病気(根の先端に膿が溜まる)が進行し、根管治療や根尖切除術を行っても改善しない場合
- プラークコントロールが困難であったり、妨げたりしている場合
抜歯例 1
60代の患者さんで、「奥歯がグラグラして痛くて噛めない。最近は顎の方までしびれがある」ということで来院されました。歯肉は著しく腫れ、歯周ポケットから膿が出ており、歯を押すと浮いたり沈んだりする状態でした。
レントゲン写真を撮影すると、根の先端まで周囲の骨が溶けており、歯石の付着も多量に認められました。この歯が原因で、隣の歯にまで影響が出ており、治療による改善が見込めないため抜歯となりました。
抜歯した歯には、根の先端まで歯石の付着が認められます。
レントゲン写真で、根の先端まで骨が溶けているのが認められます。
抜歯例 2
「前歯がグラグラして、歯肉から嫌な臭いがする」とのことで来院された50代の患者さんです。
歯周ポケットから膿が出ており、歯は今にも抜けそうな状態でした。レントゲン写真を撮影すると、歯根の周囲の骨はほとんど溶けているのが確認できました。周囲の歯への影響も出ており、治る見込みがないため抜歯となりました。
根管治療(根の内の治療)がされていますが、治療後の経過が思わしくなく、根の病気の悪化により周囲の骨が溶けてしまったと思われます。
抜歯例 3
50代の患者さんで、「右上の歯肉が急に腫れてきて痛い」ということ来院されました。
初診時は、腫れと痛みを和らげる処置を行い、歯根破折が疑われたため、後日その確認を行いました。
歯根を確認すると、予想通り、歯冠から根尖方向にかけて縦に走る破折線を認めました。破折線に沿って、周囲の骨も溶けてしまっています。
根の先端に至る垂直性の歯根破折であり、周囲の骨の吸収も著しく、保存は困難と判断し抜歯をしました。抜歯をすると、このように歯根が真っ二つに割れています。
抜歯例 4
30代の患者さんで、「左下の奥歯が痛くて噛めない」ということで来院されました。
左下の一番奥の歯に進行したむし歯を認め、レントゲン写真を撮影すると、歯冠だけでなく、歯根の1/2まで進行しておりました。歯根が分岐している所まで歯が溶けてしまっています。
歯根がこのような状態なってしまうと、被せものを装着して噛めるようにすることはできませんので、抜歯せざるをえませんでした。
抜歯例 5
30代の患者さんで、「昨夜から歯がズキズキ痛んで寝られない」ということで来院されました。
一番左の親知らずに深いむし歯と歯肉の炎症が認められます。この親知らずの存在は、周囲のプラークコントロールを妨げる原因にもなっており、親知らずの隣の歯にもむし歯が進行し始めていました。
この親知らずは、噛み合わせに関与しておらず、プラークコントロールをしやすくして周囲の歯の健康を長く保てるようにするため、抜歯を行いました。